December 11, 2023
カップに込めた温かな想いBIEN-ETRE MAISON
少しずつ秋の気配が深まり始めた11月の初め、私は代々木上原の人気パティスリー BIEN-ETRE PATISSERIE(パティスリー ビヤンネートル)のイートイン専門店として2022年にオープンした、BIEN-ETRE MAISON(メゾン ビヤンネートル)にお邪魔しました。
どこか懐かしい雰囲気漂う商店街の坂の中腹にある建物の中に入ると、真っ先に目に飛び込むのは食器が並べられたアーチ状のシェルフ。店内は、50年間続いた中華店から引き継いだという象徴的な窓のアーチをそのまま活かし、カウンターやテーブル、筒状のカーテンにいたるまで取り入れたやわらかな曲線と、木のぬくもりが感じられる温かな雰囲気が漂います。すべての席に設置されたコンセントや、ベビーカーと一緒でも安心して入れる座席のゆとりは、どんなシーンにも利用して欲しいという想いからだそう。月替わりのパフェや出来立てのミルフィーユ、ペアリングのドリンクを目当てに訪れた多くの人が、思い思いのひとときを過ごしています。
今回、yumiko iihoshi porcelainに製作依頼をいただいたオリジナル食器についてお話してくださるのは、BIEN-ETRE MAISONのオーナーシェフ馬場麻衣子氏。色味や質感が気に入り、以前からご自宅や既存のお店で食器を使ってくださっているとのことでした。
「最初は、私たちの規模でオリジナル食器の製作をお願いできるとは思ってもいなくて。引き受けていただけたときは本当に嬉しかったです。作家さんの作品てどうしても割れやすかったり、扱いが難しく、業務用で使うことが困難な中、yumiko iihoshi porcelainの食器は、プロダクトとしてきちんとなりたっていながら、作家イイホシユミコさんの感性も表現されているのが素晴らしいなって!丈夫で、食洗機で気兼ねなく使えるのもありがたいところ。そして何より、私がお店で取り入れるもので大切にしていることは、提供するメニューに使う食材はもちろん、“きちんと作り手の想いが感じられるかどうか”ということ。yumiko iihoshi porcelainは、色々なお店のオリジナル食器を作られているけれど、それぞれのお店の想いがきちんと感じられますよね。私たちの想いも、イイホシさんの手と感性を経て伝えていただければと思い依頼しました」
ご相談いただいたのは、BIEN-ETRE MAISONのオープンを控えたときのこと。「シンプルで飽きのこないような美しさと、手を添えたくなるような丸みのあるボディ」というカップのリクエストや、テイクアウトでは味わえない特別なメニューと時間を提供したいというお店のコンセプトから、作り手である馬場シェフからの心配りの気持ちが食器に込められているのだなということがうかがえました。まず取り掛かったことはカップの形状について。ご希望の容量をカバーしながらも持ったときにちょうど良い重さになるよう、軽やかだけれど薄すぎないボディのぽってり感は残しつつ、口当たりの良さを追求しました。
「甘いものを召し上がる中で、最初から最後まで一緒にペアリングを楽しんでいただけるように容量はしっかりと守りつつ、女性のお客さまが持っていて疲れないよう、ハンドルは女性の指が二本きちんと入り、男性が一本指で持ったときもしっかりと支えられるよう安定感のある形状でお願いしました。yumiko iihoshi porcelainのReIRABOシリーズのカップの縁の薄さがとても良いなと思っていたこともあり、全体的な軽やかさに加え、飲み物が美味しく感じられるよう飲み口の薄さにも気を使いましたね」
一緒に製作を進めていく中で印象的だったことは、いくつか用意した形状のサンプルをご覧いただいた際に、馬場シェフがひとつひとつのカップを大事に、そっと両手で包み確認されていたこと。そしてすぐに「これで」と直感的に選ばれたカップは、ほっとするようなやわらかな形状でした。
「女性はカップを持つときに手を添えられる方が多いんですよね。店内でも、両手で温かい飲み物を飲んで家でくつろいでいるような気分で過ごしていただきたくて、手に馴染むカップの丸みにこだわりました。仏語で家を意味する’maison(メゾン)’を店名に入れたのも、自宅で過ごすようなほっこりと安らぐ時間になるようにという想いを込めて。完成したカップは、店内のいたるところに採用した象徴的な窓のアーチともリンクする優しい曲線で、持つときも労わるように、大事にしたくなるフォルム。大切な方への贈り物にも選んでいただけたら嬉しいですね」
完成した三色のオリジナルカップ&ソーサーは、しっとりとした手触りとぬくもりが感じられる優しい風合いが特徴。ホワイトは一年を通して、春夏には涼やかなブルー、秋冬には温かみのあるパープルがそれぞれ加わり、季節によって店内で使う色を分けているそう。常に旬の素材と向き合い、季節感を大切にする馬場シェフならではアイディアですね。単色ではなくカラーバリエーションを取り入れた背景には、「今日は何色のカップかな」と常連のお客さまにとっての小さな楽しみになれば、という心配りも。「店内で並べてみたら、なんだかもっと色を増やしたくなっちゃって(笑)。次はどんな色をお願いしようかな、って考えています」と、お話してくださいました。
今回お話をうかがい、目の前で丁寧に盛り付けられたパフェとペアリングのコーヒーを実際に席でいただき私が感じたことは、BIEN-ETRE MAISONが人々の心をつかんで離さないのは、新鮮な驚きと喜びを与えてくれる奥深いデザートやドリンクの組み合わせはもちろん、ここで見て触れて感じるすべてのことに、馬場シェフの温かな想いが込められているからだということ。訪れた方のこの場でしか感じることができない特別なひとときに、そっと寄り添うカップ&ソーサーになればと願います。
<BIEN-ETRE MAISONオリジナルカップ&ソーサーは、BIEN-ETRE MAISONにて販売しています。>
BIEN-ETRE MAISON
〒151-0064
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03-5738-8827
Instagram @bienetre.maison
Photo Suguru Ariga
Interview & text Natsuko Kobayashi